ふる池や 蛙飛び込む 水の音
|
これは,松尾芭蕉の有名な俳句の一つで,彼が43歳の時に詠んだものらしい。 |
この俳句は,昼間でも閑散としていて水の音などまったく聞こえてこない古池に,突然カエルが飛び込む音がして,そのあと,また静まり |
返った池になる様子を描いたもので,静かな情景を秘めている歌であると,教わった記憶があります。 |
ところが,もっと深い意味があるらしく,古池は永遠なる自然の生命の象徴であり, |
|
そこへカエルが飛び込む音は,永遠の生命と比べれば一瞬に過ぎない人間の一生で |
あると。すなわち,一瞬に過ぎない人生を嘆き悲しみながら過ごすことの虚しさを |
歌い,逆に,生を惜しみ感謝しながら生きることが大切であるということを説いた |
ものであるというのです(鈴木大拙 氏,Dr. Daisetsu Suzuki)。 |
奥が深いですね。 |
さて,この俳句に登場するカエルはいったい何匹なのか考えてたことはありますか。 |
私たち日本人は何匹かについて,あまり気にしないように思います。それは,日本 |
|
語が数に拘らない言語だからではないでしょうか。日本語で文を書く時,数が話題 |
|
の中心ではないとすれば,数のことはあまり気にしないで文を書きます。ところが |
英語は違います。英語は,単数か複数かで文の意味が変わってくることがあります |
から,英語で文を書くうえで「数」は大事な情報になります。そこで,この俳句を英訳する場合,カエルが1匹なのか,複数匹なのかと |
いう情報が必要になります。実際のところ松尾芭蕉に聞かないとわかりませんが,それは無理なので,この俳句の意味することに基づい |
て推察すると,1匹のカエルが飛び込んで「チャポン」という音がしたという光景のほうが,複数匹のカエルがバタバタ飛び込むより良さ |
そうです。よって,この俳句は以下のような英文にすると,その情緒が伝わるように思います。 |
The ancient pond
A frog leaps in
The sound of the water |
どうでしょうか。「チャポン」という音が伝わったでしょうか。 |
|
|